2019年 冬の夜

帰省先の実家で過ごす最後の夜。

6ヶ月の娘を膝に乗せピアノを奏でる。隣には3歳の娘が座って、鍵盤をたたく。

そんな姿を見た母が、「幸せな光景だね」と言った。そして「子どもの幸せは私の幸せなのよ」と言った。

母がいつまでも幸せな気持ちでいられますようにと深く願った。


私は明日、ふたりの娘と北の大地へ帰ります。

幼い娘達にとって私はどんな母親なのだろう。
私もいつか母のような母親になれるのかな。

前へ前へ

妊娠8ヶ月も残りわずかになった。

産科で友達ができた。

出産予定日も、年齢もほぼ同じ。

望んで望んで、子どもを授かった境遇も同じ。

さすがに、自分のように長年かかったわけではないけど。


この北の大地に来て、4年目。
はじめての友達。

正直、すごく嬉しかった。
転勤せずに、ずっとここにいてもいいなと思うくらい。


長い年月、薄暗い闇の中にいたような、そんな気持ちでいたけれど、妊娠とともに、一気に扉が開かれて、今、正に上昇している気がする。

いい風が吹いている。
間違いなく、人生の幸運期の中にいる。

いのち

結婚7年目にして、はじめて赤ちゃんを授かった。


それはもう、人生の中で一番嬉しく喜びに包まれた。


神さまありがとうって思った。


ひとつのいのち。
大事に大事に育てたい。


未来へのドアが開かれた気がした。


一歩一歩、歩いていきたいと思う。

変わっていくもの変わらないもの

教え子たちのその後を追うと、私が知っているその子たちの枠を越えた成長を遂げていた。

小学生だった子が、高校生になっている。

しっかり勉強をして真っ直ぐ進学校にいっている子。友だちとの青春を謳歌している子。

姿も中身も、目まぐるしく成長を遂げた子たち。

私は、あの頃のまま。
私の中で時が止まっている。

振り返るのは、自分にとってメリットになるとはあまり思ってはいない。

けれど、どうしてこんなにも、過去をいとおしく、必要としてしまうのだろうか。

この先も、ずーっとずっと過去は輝いていくのかな。

もう一度、今が一番いいと思う日は来るのだろうか。

涙が出るほど嬉しくて、息ができなくなるくらい笑う日はくるのだろうか。




赤や黄色に染まった木々を見ながら、秋の深まりを感じる日。

雪虫たちが飛び交って。

今年も、もうすぐ冬がやってくる。




2014年 秋の夜。

あの日のあの場所へ

澄んだ空を見上げると、シロちゃんに会いたくなった。

とても会いたい。

そして、あの日のあの場所へ行きたい。

シロちゃんが生まれ育った街。

空の色が明るい水色で、海がとってもきれい。

照りつける太陽にだって、笑い飛ばせる力を持っていた。

あの空を、あの海を、もう一度見れたらいいな。

あれから10年。

私たちは別々の場所で違う人生を歩み始めた。

シロちゃんに何があったかは分からないけれど、目に見えて痩せて、瞳の奥にある影を見た。

この世の中には、悲しいことや、辛いことがいっぱいいっぱいある。

そのことがシロちゃんを苦しめているのなら、助け出してあげたいと思った。

でも、シロちゃんは私の知らないうちに、私の知らない人と結婚をして、すぐに赤ちゃんが生まれた。

私の出番は、もうないんだな。

シロちゃんが今日もあの空の下で、笑顔で元気にいられますようにと願っている。

これからもずっと、笑顔でいられますようにと。